「厚床から別当賀の酪農郷を結び、人と人をつなぐ歩く道」
「根室フットパス」は、根室の酪農家集団「AB-MOBIT」によって拓かれました。
名称の由来は『ABのAは厚床(ATTOKO/あっとこ)、Bは別当賀(BETTOGA/べっとが)の頭文字。MOBITは酪農家5人の頭文字。Mは村島、Oは小笠原、Bは馬場、Iは伊藤、Tは富岡の各牧場の頭文字をとり、mobileとbitから広い根室の中で活動する機動的な小片(各牧場)』を表しています。
根室フットパスのうち「厚床パス」「別当賀パス」を実際に歩いてきたので、その魅力を余すことなくお伝えいたします。
この記事は「知床ねむろ・北太平洋シーニックバイウェイ」の魅力・活動を発信するため、関係する皆様のご協力のもとで取材しています。魅力が凝縮されたモデルルートMAPがダウンロードできますので、この記事やMAPを参考にして「知床ねむろ・北太平洋シーニックバイウェイ」を体験してみてください。
「もの思いにふける丘」を目指して厚床パスを歩く
厚床パスを歩くには、まずは厚床駅を目指します。釧路→浜中方面から来ても、中標津→別海方面から来ても、ちょうど交わる場所にあるのでレンタカーを運転して来てもわかりやすいはず。もちろん花咲線に乗ってJRで来て歩き始めてもOKです。
案内していただいたガイドさんから「青春18きっぷのポスターになった場所ですよ」と教わり、さっそく写真を撮ってみる。
こんな感じかな? そこまで悪い出来ではないんじゃないでしょうか? と思い、実物を拝見すると……。
「早く着くこと」よりも大切にしたいことがある人に。【青春18きっぷ 2000年 夏/根室本線:厚床駅】 pic.twitter.com/9txCy6qzw2
— 青春18きっぷポスター&コピーbot (@18Ticket_PRbot) February 19, 2018
やはり本物はレベルが違いましたね! 空の抜け感と『「早く着くこと」よりも大切にしたいことがある人に。』というコピーが素晴らしい。これから歩く厚床パスも、急いで歩くことが目的ではなくゆっくりと色々なことを感じながら歩きたいものです。出発前にいいお言葉をいただきました。
そろそろ出発をしようかというタイミングで、ちょうど花咲線の車両が入ってきました。地方のローカル線ならではの一両編成がなんとも可愛らしく見えます。ホワイトと水色の配色も爽やか。花咲線らしい紅白の車両もいいけど、このタイプもいいな。
厚床駅の左側から、厚床パスがスタートします。(ルートの変更や迂回の必要がある場合もあるので、その都度ご確認ください)
※取材時はセイコーマート左手側の道路の先にあるゲートからスタートしました
ゲートの脇をとおり、厚床パスを歩き始めます。フットパスの全長はおよそ10.5キロメートルほど。牛の放牧を眺めながら、青々とした牧草地を歩いて回る、アップダウンの少ないコースとなっています。
ルートの途中には標津線跡や殖民軌道跡など、開拓期の歴史が偲ばれる場所や、根室の気候がつくり出した植物など、豊かな自然を楽しむことができます。
何と言っても厚床パスの終盤のおすすめポイントは、ここ「もの思いにふける丘」です。森の中に急に景色が開ける小高い丘は、北海道らしい原風景を感じられる場所。爽やかな風が吹き抜ける「ザザザーッ」という音も相まって、トレッキングで疲れた体を癒してくれます。
※ この牧草地は基本的に一般の方が立ち入ることができる場所ではありませんが、厚床パスのマップを購入してフットパスを歩く方のみ入ることができます。くれぐれもお気を付けください!
ここをただ素通りするなんてもったいない! せっかくなのでこの景色と空気を満喫するため、ゆっくり休んでいこうと思います。担いできたバッグからお気に入りのアウトドアを取り出して、自分だけの絶景カフェをセッティング。
コーヒーを淹れるギアを持ってこなかったのだけが残念…ここで豆から挽いてコーヒー飲むことができたら、何にも勝る贅沢だと思いませんか。テーブルを広げてアフタヌーンティーを飲むなんていうのも、至高の贅沢だと思います。それもこれも、この見渡す限りに人工物がほとんど見えない「もの思いにふける丘」のポテンシャルあってのもの。
これだけでも充分に満足する時間を楽しめますが、今度来るときは万全のギアをもって臨みたいと心に決めました。
明郷 伊藤☆牧場でランチと体力回復
厚床パスのハイライト、「もの思いにふける丘」から林道に入り、さらに歩くこと10分ほど。この根室フットパスを作った男たちによる酪農家集団「AB-MOBIT」の「I」、「明郷 伊藤☆牧場」が見えてきます。
敷地内にある「レストランATTOKO」はメニューが豊富でどれにしようか迷ってしまいますが、疲れた体にはやっぱり「明郷短角和牛のサーロインステーキ(300g)」で決まり。豪快に喰らいついて、フットパスを歩いて疲労した体を回復させて……。
しばしの休憩をとり、「酪農喫茶GrssyHil」で新鮮な牛乳でできたソフトクリームを食べて栄養も十分!
前述した厚床パスもそうですが、これから目指す別当賀パスもルートマップ(200円)の購入が必要です。虫よけグッズやタオル、行動食なども併設の「ちいさな雑貨屋Étable」で販売されていますので、不足するものがあれば購入しておきましょう!
別当賀パスに入るには届け出と鍵を借りる必要がありますので、忘れずに手続きをして別当賀パスに向かいます。
あわせて読みたい「明郷 伊藤☆牧場」の魅力
>>ブランド和牛にソフトクリームも。明郷 伊藤☆牧場には牧場の魅力の粋が詰まっていた
海に着いた時の達成感・爽快感が格別な別当賀パス
別当賀パスのスタート地点、JR別当賀駅から出発します。改札などがなく、誰でもホームまで簡単に出られるローカル線のほのぼのとした雰囲気が最高です。気温が高くなることがあまり多くない根室ですが、この日はじりじりとした太陽が心地いい天気で、まさにトレッキング日和。水分と塩分は忘れずに携行しましょう。
別当賀パスの案内看板を目印に進みます。ちなみに「B」の表記はBETTOGAの頭文字のBとのこと。(ATTOKOはAでしたね)砂利道に沿って、一本道をずんずんと進んでいきます。
ちなみに、明郷 伊藤☆牧場で借りてきたカギを使用するこのゲートの前までは、車で来ることもできます。(車を数台停めておけるスペースがあります)
どこから歩き始めるかは、その時の体調や時間の余裕に応じて決めるのがいいですね。長距離のトレッキングは、ケガをしないように自分のペースで楽しむのが大事です。
ここから先は、野鳥保護区のフレシマ湿原。霧多布からこの別当賀、落石を経て根室へと続く太平洋沿岸は、北海道の手つかずの海岸線の原風景を残す貴重な景観です。タンチョウの繁殖地でもあるため心して入り、自然環境に最大限配慮した上でトレッキングを楽しむようにしましょう。
この日はじめて別当賀パスを体験したのですが、数あるフットパスの中でもここは次々にステージが移り変わるのが魅力だなぁと感じました。まずは起伏のある湿原の景色を堪能しながら歩みを進めます。次に目指すゲートが小さく見える……。あんなところまで歩けるんだろうか…と不安になる気持ちを鼓舞しながら。
途中、木陰のほとりを流れる小川があったので、小休止。そしてまた歩き出します。
スタート地点からは小粒のように小さく見えていた次のゲートに辿り着きました! このゲートは人間だけが通行できる「キッシングゲート」と呼ばれるゲートなのですが、疲れた頭では一瞬どうやって開けられるのか迷います。(この車輪のようなものが開閉するのかと思いきや、オブジェでした……。)
ゲートを超えてしばし歩くと、広大な牧草地帯に入ります。こんなにも空が広くて、起伏の大きなダイナミックな地形で、切り立った海岸沿いの地形を、道東の他の場所では見たことがない気がします。そのくらい、この太平洋沿岸の地形はユニークで魅力のある場所。
気持ち的には「すごいっ!」と感動してこの広大な場所を走り回りたいくらいだったのですが、この時点でけっこう内ももに乳酸が溜まりはじめているのを感じています。この日はまだ牧草の収穫前で長く伸びていたため、必然的に高く足を上げながら歩いていたのが影響したのでしょうか。仕事柄、トレッキングやスノーシューイングで慣れていると思って油断したのが運の尽きでした…。
しかし、眼下を見渡すと根室らしい美しくも壮大な景色が広がっているのをみて、しばし疲労を忘れます。湿原に点在する沼と、その先に見えているのは太平洋! 折り返し地点はもうすぐ目に見えています!
そして不意に視界に入る建造物。こんなところに人工物があるんだ…と一瞬考えるも、それもそのはず。ここは根室フットパスを作った一人である馬場牧場の、先代たちがかつて暮らしていた牧場の跡地。太平洋を望む小高い丘に建つ跡を見て、ここでの暮らしに想いを馳せてみる。きっと途方もない苦労がそこにあったのだと思います。
そして視界は一気に開けて太平洋に到着! フットパスのマップ上は「プライベートビーチ」になっているのが素敵です。本当にこのビーチを独り占め。
砂浜に降り立つまではかなり気温も高く汗だくになっていましたが、ここにきて急に感じる心地よく適度に冷たい風。相変わらず内ももは疲労感を感じていますが、この景色を見ると「頑張って歩いてきてよかった……」と心底思います。
スタート前に「ちいさな雑貨屋Étable」で買っておいた行動食を食べて休憩です。(お昼時に合わせて歩く場合は、「酪農喫茶GrssyHil」で軽食をテイクアウトしてもってくるのもオススメ!)
これはお隣の浜中町のおしゃれカフェ「ファームデザインズ」の「牛サブレ」。ほんのりと感じるミルク風味がたまらない。
そして根室の水産加工品「かねむら村上商店」の「たらとばすてぃっく」と「鮭すてぃっく」。汗をたくさんかいて失われた塩分を補給するのに最適! …なはずです。
これらに限らず、普段ならお土産として購入して持って帰るものも、アクティビティの途中で体力回復に使う行動食として食べると、さらに愛着が湧きませんか? 「あの時、これを食べて復活したからフットパスを踏破できたぞ…」という想い出にも残るはず。
砂浜でゆっくり休んだ後は、別当賀パスのクライマックス「お台馬場」へ向かうことに。小高い丘に向かう傾斜を見て一瞬めげそうになるも、ここで諦めたら意味がないぞ! と自らを鼓舞して登ります。
丘の上には目印になるオブジェ。ここがお台馬場です。達成感を感じながらフレシマ湿原の方に目をやると…。
眼下にはこんなにも美しい湿原の風景が広がっていました。頑張って写真を撮ってお伝えしたいなと思うものの、この壮大さ・雄大さは実際に頑張って歩いて到達しないと、得られない感動だなというのもまた事実。時間を忘れて見入っていたい景色がそこにありました。
(日の出や夕焼けの時間にここに辿り着いたりしても、さらに最高なトレッキング体験になるんじゃないでしょうか?)
別当賀パスとフレシマ湿原。根室を旅していると、本質的なというか根源的なというか、表面的ではない圧倒的な魅力ある風景に出会うことができるなと、しみじみと感じています。根室エリアに数泊するつもりで、ゆったりとじっくりと時間をかけて「旅」をすること。それこそが根室の魅力を体験する一番の方法ではないでしょうか…と思うのです。
知床ねむろ観光連盟 事務局長。知床ねむろマガジン編集長。北海道の最果ての地「知床ねむろエリア」で知床ねむろエリアの、そして道東コーディネイターをしています。
「知床ねむろマガジン」編集部。知床ねむろエリアが持つ潜在的な魅力を掘り起こし、お伝えしています。