今回は全国47都道府県のローカル情報を届ける「どこでも地元メディア ジモコロ」の編集長を務め、全国を旅されている編集者・徳谷柿次郎さんをJEEPでご案内!2泊3日でめぐる知床ねむろエリアをレポートしていただきます。
全国47都道府県を編集する…そんな大袈裟な旗を振り始めて約7年。
カレンダーに3日連続で空白があれば「よし、旅に行けるぞ」と脳が錯覚を起こし、取材ツアーを組むような日々が続いている。
疲労困憊になりながらも、過剰な移動を繰り返し、全力で人と向き合って会話を楽しみ、夜中の3時まで飲み明かす。そんな姿を見ている僕の会社のスタッフは不思議そうに首をかしげる。
「いや、無理に旅をしなければいいんじゃないですか?」
本当にそう思う。さぞかし不思議なんだろう。
しかし、僕の会社は旅先で出会った価値を仕事に変換するのが生業だ。移動してなんぼ。そして知らない世界に身体ごと飛び込んで、目の前に広がる景色や様々な暮らし方をしている現実に触れることこそが重要だと思っている。この連続性に身を任せる快感は、もはや旅の中毒といってもいいかもしれない。脳が記憶した成功体験と、過酷でハードな時間の使い方には、生を実感させる効能すらある。
今回訪れた知床ねむろエリアは、自分にとって、見知らぬ土地の険しい自然の在り方をまざまざと見せつけられた思い出深い土地だ。
もう5年前にもなるが、秋から冬にさしかかる10月下旬にノープランで降り立った根室中標津(ねむろなかしべつ)空港の光景はいまも忘れられない。
14時ごろに到着して、レンタカーに乗り換えて走り出したらもう陽が暮れ始めていた。
迫ってくる日没は、これからまさに取材ツアーが始まるぞ!と意気込んだ矢先の洗礼。
その日はもうなにもできないことが確定し、いつ鹿が飛び出てくるのかわからない夜道を走り続けた経験はすばらしかった。
単純に険しい自然を舐めていたと思われても仕方がない。
あれから何度も道東を訪れて旅をした。
季節をまたいだ北海道の雄大な景色は、驚くほどに違う表情を見せてくれる。
決して余裕は見せられないが、当時の行き当たりばったりなプランとは打って変わって、今回は頼もしい旅の相棒が揃っているから心強い。まず現地の友だちが案内してくれる。
さらに、いつ鹿が飛び込んできても衝撃に耐えられるJEEP付き。準備次第で旅の解像度が大きく変わることを、少しでも伝えられたらいいなと思う。
Contents
北の大地にカムバック!「秋鮭(あきあじ)」釣り体験
北海道のイメージといえば「鮭」だろう。なんたって熊の木彫り人形でもヒグマが鮭を口に加えているし、5月〜8月は時期を間違えて戻ってきた鮭を「時鮭(ときしらず)」、そして9月、10月にかけては産卵のために川へ戻る鮭を「秋鮭(あきあじ)」と呼ぶらしい。
釣りキチの間では、この「秋鮭釣り」が人気らしい。
今回のツアーを実施したのは10月上旬。
こちとら釣り初心者。そんな簡単に釣れるわけがないので、助っ人として「標津サーモン科学館」の副館長・西尾朋高さんが駆けつけてくれた。
今まで持ったことのない長竿、そして重量感のあるルアーをセットし、一本背負いの要領で遠い海に向かって投げる。それだけ秋鮭の個体がデカいのだろう。
準備として欠かせないのが、釣り用のフィンガーガードだ。
前述の通り、重いルアーがついた長竿を振るたびに指がもげそうになる。
西尾さんがお父さんから譲り受けたというフィンガーガードは丹念に使い込まれており、何度も何度も竿を振るたびに安心感を発揮。
海の近くで育った男の気骨な精神性は、こういった趣味の中で育まれるのかもしれない。
ビュンッ!
泊湾の先には国後島が見える。
海釣りの経験がほぼなかったのだけれど、朝早く起きて海に向かって気持ちと竿を投げ込むだけで気持ちがいい。
これは釣れなかった人間の言い訳ではなく、”釣れない釣り”にも価値があることを知っているからだ。
行動に対して結果を求めすぎる現代社会だからこそ、結果が伴わない自分を愛でてあげてもいいんじゃない?
ほら、釣れなくてもこの笑顔。アウトドアチェアを広げて、海を見ながら朝のコーヒーを一口すするだけで何かやった感が出る。
「本気の秋鮭釣りはそんな悠長なもんじゃねぇ!」と感じる方もいるかもしれないが、都心の人々は自然と触れ合える機会を求めているはず。
そもそも”釣れない釣り”は、釣るために海へ向きあうプロセスをポジティブに備えている。競争から一歩身を引いて、諦めもまた肝心と心得る、引き算の考え方ではないだろうか。
その前提で釣れたときの喜びと興奮は格別だろう。
こんな言い訳を覚えていくのも、大人の一歩だ。本心で言えば、もちろん釣りたかった…。
天運我にあり。
1日29,000円でJEEPを借りる体験
今回の大きな目的のひとつ。根室中標津空港から約15分の場所にある「トムソーヤレンタカー(小野自動車商会)」へ。
男の憧れであり、経営者が乗り回す車の筆頭株「JEEP WRANGLER」をレンタルする。
これは持論なのだが、知らない土地の運転はリスクがつきものなので、軽自動車は極力避けて安定感のある普通乗用車に乗ったほうがいい。
特に北海道は鹿もいきなり飛び出てくるし、冬の雪道は四駆の方が安全に決まっている。
こんなことを書いていても、旅先でまさかJEEPのレンタカーに乗った経験はない。
しかも、一日=29,000円。安いか高いかは人それぞれだろうが、なかなか訪れる機会のない土地を旅するならひとつの選択肢として大いにアリだと思う。
お金で驚きと安全を買う!
野付半島周辺のドライブで、人生初のJEEP体験の感動は、写真が物語っている。なんというか画になってしまう。
ダイナミックな乗り心地は、さすが戦場を駆け抜けた軍用車といったところ。
車体が大きくても北海道は道が広いから運転(安心の右ハンドル!)しやすいし、なによりも雄大な景色を大きく感じ取れる車高の高さは価値がある。
ここは天国か…?
総合力全国1位!すごすぎる温泉宿「湯宿だいいち」
突然だけど、僕はお風呂が大好きで大好きで仕方ない…。
過酷な旅の疲れは温泉がないとやってられないし、温泉のために旅をしているといっても過言ではない。そのため全国各地の温泉に浸かり続けている。
初日に泊まった「湯宿だいいち」は、お世辞抜きにして全体の風呂レベルがあまりにも高すぎて感動してしまった。
まず初手のシャワーで「あ、これは水質が違うな?」となり、内湯に浸かった時点で「はい、大自然の恵み」とお察し。源泉かけながしはどこでもあるものの、根本的な泉質がスーパーフレッシュ!
湯宿だいいちで遭遇した、見たことのない文字列「源泉 おんせんさうな」。
スーパーフレッシュな温泉をミストサウナにしている、変わり種かつ、とんでもなく贅沢な空間である。
霧状の温泉が頭皮、皮膚、そして血流に染み込んでくるような感覚で、「ミストサウナは温まるのに時間がかかる」と思っている人も安心して大丈夫。なぜならミストが源泉だから。ありえない、ありえないよ。
そして露天風呂のスケール感が半端じゃない。目の前には川。源泉ミストサウナ→熱々の露天風呂→入水というルーティンは、世のサウナーたちをイチコロにすると思う。瞬殺も瞬殺。こんなにも気持ちいい温泉は稀有だと思う。
完全に総合力1位。『筋肉番付』のケイン・コスギみたいなもんだ。
もちろん晩ごはんは、北海道の食材をふんだんに使った料理ばかりでおいしい。友だちとの会話が弾む。ビールは減り続ける。これぞ、温泉宿の醍醐味。
イチ押しなのが贅沢な朝ごはん。そして「WILD MILK」の文字が輝かしい「養老牛放牧牛乳」はマストで飲んでいただきたい。
いわゆるグラスフェッドミルクで、生命力がとろとろに宿っている逸品! いや、この飲み口の衝撃といったらほかにない。週3で飲んでたらめっちゃ元気になりそうなので、なんとかお取り寄せできないのかな!?
UB COFFEEからのデイキャンプ体験
中標津に行ったら立ち寄ってほしいのが「UB COFFEE」。ただのコーヒー屋かと思えば、一階がお花屋で二階がコーヒーショップ & アウトドアショップの複合型店舗になっているから驚き。
しかも、ここでデイキャンプ用のグッズを選んでレンタルすることが可能。取材時はお試し期間だったものの、その場で気になるアイテムを選んだら、新品のまま持ち出して使えることに…売り物なのに大丈夫!?
>> UB COFFEEのアウトドアギアレンタルはこちらからお問合せください
いざ、デイキャンプのスペースへ。
いや、ロケーションすごすぎるだろ。
目の前は野付半島の海。知床半島と根室半島の真ん中あたりで、エビみたいな形をしているのが特徴。長年にわたって流された砂が堆積し、全長約26kmにおよぶ「砂嘴(さし)」は日本最大だそう。いつブラタモリがロケに訪れてもおかしくない。
ここでキャンプができるなんてね……。
コーヒーを淹れるにしても、BBQをするにしても、人類の進化を促した(かもしれない)行為、「火起こし」は体験として欠かせない。火種になる松の木材を使った着火剤を使って、ナイフで燃えやすいよう空気が入りやすいよう燃えやすい形状に削り出す作業。これが地味に難しい。
もちろん薪もセルフで割る。薪割りをなめちゃいけないんだけど、焚き木サイズに細かく割るための「ファイヤーサイド キンドリングクラッカー」がマジで便利かつ気持ちいい。
力に頼らず、ハンマーで叩くだけでパキッと割れる。刃物を使わないため、子どもの薪割り体験としてもベストだなこれは。
ここは「ミートハウスながの」さんが運営しているため、BBQ体験ではここで育てている潮彩牛のステーキ、野付半島で穫れる北海シマエビなど、自然の幸に思う存分食らいつくことができた。
そもそも関東近郊のデイキャンプではなく、あえて飛行機に乗って根室中標津空港へ。たった30分のキャンプ場は、本来の観光目線では辿り着けないところだともいえる。1泊や2泊の北海道旅行は距離感がわからずに欲張ってしまいがちだからこそ、あえて野付半島近くの土地にとどまってゆっくり時間を過ごすのは贅沢そのものではないだろうか。
手ぶらキャンプのシルクロード。ようこそ涅槃へ。
ジュウウウウウウ。美味そう。
牛。
事前予約必須のネイチャー体験「ナラワラ原生林トレッキングツアー」
続いて同じ野付半島のネイチャー体験へご案内。道立公園に指定されているこのエリア。人間の手がほとんど及んでいない原野の風景に惹かれて、多くの写真好きが訪れる観光スポットでもある。普通にふらっと来ても道中の景色で充分楽しめるが、事前予約必須のガイド帯同ツアーがとてもすばらしいので推しておきたい。
ナラワラは立ち枯れたミズナラの木。そしてトドワラは立ち枯れたトドマツの木。野付半島は毎年1.5cmずつ地盤沈下していて、海水が侵食した影響で自然界に影響を与えている。およそ100年前から立ち枯れた木が目立つようになっているそうだが、目の前に広がっている景色は数十年後も当たり前に存在しているものではない。その事実を認識しながら、自然の中に足を踏み入れたアウェイ側の人間として歩く時間は尊い。
この儚さが描く色彩感覚は、都会の喧騒に飲み込まれてもがく人の心を大きく揺らすだろう。自分もそのひとり。長い時間軸の中でただそこに存在する自然の風景は、「あ〜癒やされる」なんてもんじゃない。鈍感に麻痺した心のはじっこに刺激を与えて、蓋をしてきた感情と向き合うきっかけになるはずだ。
旅の締めは極上のレストラン「フェネトレ」で
幸運なことに全国のおいしいご飯を食べる機会が多い。それは現地の人の最大のおもてなしだったり、自らの好奇心が手繰り寄せることもある。もしフレンチ、ガストロノミー、自然派ワインといったキーワードにピンとくるのであれば、旅の最終地点にこの「フェネトレ」を入れてほしい。
知床ねむろエリアは、農作物はもちろん、オホーツク近郊で穫れる魚介類まで、大地の力強さを引き出した食材の宝庫だ。
実は「フェネトレ」に訪れるのは二度目。前回も想像を超えるどころか、そもそも想像できないことが前菜となっていたように思う。
町外れの立地、扉を開けると店の創造力に肩までどっぷり浸かるような空間の妙。シェフの松村聡彦さんが提案してくれる料理はどれも独創的で、丁寧に食材の個性を掛け合わせていて、ただただ美味い。
例えばこの一皿。津別町・かしば農園のトマト&河本農場の一味・朱乃一振、北見市・津村製麺所の素麺を合わせているのだが、「シンプルな食材で引き出せる旨味のK点超えしてるよ!」と叫んでしまった。その時期にしか出せない旬の食材が持つパワー。もしかしたら中標津はそのパワーが尋常じゃないのかもしれない。
そして大好きになったレストランの価値を伝えるために、金額の話をするのは野暮だということは百も承知……。決して便利とはいえないこの土地に店を構えて、近くでおいしい食材を仕入れることで生まれる差分にも驚きの要素があるのだとしたら、「フェネトレ」がディナーコース=11,000円(サービス料5%別)を実現していることに敬意を評したい。
–
“Fenêtre”
フランスの言葉で『窓』を意味します。
正確に発音すると違う音になりますが、
私達はこれを「フェネトレ」と読むことにしました。
広い世界にある文化、
近くそこにある素材、
それらを素直に自分なりの方法で
調理し、お届けします。
–
公式HPから引用したこのメッセージにすべて詰まっている。知床ねむろエリア、中標津の『窓』を開くための道筋が見えたんじゃないだろうか。
小難しい言葉は必要ない。記憶に残る旅は、誰と行くか。そして最後に何を食べるか。あとは「楽しい」「美味い」「また会いましょう」を素直に発すれば十分だ。
それでは、また会いましょう。
大自然の恵みに圧倒される2泊3日ツアー行程
JEEPで巡った2泊3日のツアー行程はこちら。
根室海峡
(株)小野自動車商会 小野自動車レンタカー
北海道標津郡中標津町東16条南1丁目8番地
TEL 0153-72-2176
湯宿だいいち
北海道標津郡中標津町養老牛518
TEL 0153-78-2131
UB COFFEE HEART FLOWER Charl!e
北海道標津郡中標津町西8条南11丁目1-9
TEL 0153-74-8830
https://charlie-ub.com/
ミートハウスながの
北海道野付郡別海町尾岱沼岬町65番地
TEL 0153-86-2368
https://farm-nagano.jp/
野付半島・ナラワラ
Fenêtre(フェネトレ)
北海道標津郡中標津町緑町南1丁目2-29
TEL 0153-72-3775
http://fenetre-nakashibetsu.com/
<併せて読んで欲しい>同じくJEEPに乗って中標津の開陽台を目指す記事はこちら
>> 神々しい朝焼けの中で自分だけの絶景カフェを。Re:Start 開陽台
徳谷 柿次郎
Huuuu inc.代表。ジモコロ編集長。大阪出身。全国47都道府県を編集するお仕事。趣味は「日本語ラップ」「漫画」「プロレス」「コーヒー」「登山」など。顎関節症、胃弱、痔持ちと食のシルクロードが地獄に陥っている。
1985年、北海道遠別町生まれ。2012年まで札幌で過ごしUターン。地域おこし協力隊として活動後、NPO法人えんおこを設立し遠別町を拠点にイベントやPRを手掛ける。写真・イラスト・デザインの個人事業も行っている。
北海道の東、道東地域を拠点に活動する一般社団法人ドット道東の編集部。道東各地域の高い解像度と情報をベースに企画・コンテンツ制作をおこなう。自社出版プロジェクト・道東のアンオフィシャルガイドブック「.doto」などがある。