こんにちは!Seisyu Laboのせいしゅうです。
突然ですが、北海道の「食」といえば皆さんはどんなものを思い浮かべますか?
一般的なイメージとしては、口溶けなめらかなソフトクリーム、ホクホクのじゃがバター、ツルツルに茹で上がったカニなど、大規模な一次産業に支えられた豊かな食資源があるのはご周知の通りと思います。
それらの多くは近代になってから先人の開拓によって得てきたものですが、実はそれよりもはるか昔、一万年前から北の大地に暮らす人々の営みを支えてきた自然資源があるのです。
それこそが今回の旅のテーマである「鮭」です!
ここでお話する「鮭」とは、北海道内で多く水揚げされる「シロザケ」のことを主に指していて、道内では秋さけやあきあじとも呼ばれています。
また、アイヌ語ではカムイチェプ(神の魚)とも呼ばれるこの魚は、縄文時代早期から北の大地に住む人々の生活を支えていたことが明らかになっています。
その中でも、”鮭の聖地”と呼ばれる根室海峡沿岸部では4400を超える数の遺跡群があり、一万年前から人々が「豊かすぎる自然資源=鮭」を求めてこの地に集まっていたとのこと。歴史を辿っていけば、北海道における人と鮭の「道」はここから始まっているといっても過言ではないのです!
そこで今回は、鮭にまつわるアレコレをラボする=いつもよりちょっと深く調べて楽しむフィールドワークをするべく道東の”鮭の聖地”を訪れてきましたので、そのレポートをお伝えします。
このレポートを通して、海峡から食卓まで鮭と共に根室海峡沿岸部の魅力を巡り尽くし、鮭のことを学びながら鮭をもっとディープに味わう「サケラボ」の旅を擬似体験していただけたら幸いです!
Contents
【鮭学①】ポー川史跡自然公園 資料館
まずはじめに、こちらの「鮭学」の章では根室海峡の鮭にまつわる歴史や文化を学ぶことができるスポットや体験をご紹介します!
日本最大規模の古代遺跡でもあるポー川史跡自然公園の資料館には、縄文時代から続いてきた標津での歴史をさまざまな資料から学ぶことができます。
今回は、学芸員の小野さんに標津町の鮭にまつわるお話をお伺いしました。
縄文時代の貝塚からも鮭の骨が大量に発掘されているなど、はるか古代から「鮭のパラダイス」だったという標津。こちらの屏風に描かれているのは、先住民族であるアイヌと和人が標津川のほとりに集落を築きながら遡上してきた鮭の収穫をしている様子です。
その屏風のレプリカが資料館内に展示されていて、細部まで見ることができます。
よく見てみると、家の中に山漬け(塩漬けされて山積みになった鮭)が描かれていたり、アイヌと和人の家のつくりの違いが見られたりと様々な発見があります…!
標津町歴史民俗資料館
住所:標津郡標津町字伊茶仁2784番地
TEL:0153-82-3674
入場料:無料
【鮭学②】ポー川史跡自然公園 スノーシュートレッキング
ポー川史跡自然公園では、資料館で標津の歴史と文化について学んでイメージが膨らんだ後に、実際に公園内を探索するフィールドワークを体験することができます。
今回は冬なのでスノーシュートレッキング。車で公園内の奥まで移動すること数分、そこから先はスノーシューに履き替えて公園内の散策に入ります。
今回は、地元のガイドさんにご案内していただきました。縄文の史跡についてはもちろんのこと、もともとはハンターをされていたということもあって、標津のワイルドな自然にまつわるエピソードもお話いただきます。
写真では少し分かりづらいかと思いますが、丘の上にはいくつもの不自然に陥没した場所があります。そこは標津に4400箇所あると言われている縄文時代の住居跡であり、かつてはこの丘に集落が存在し、鮭を資源に生活していたことが想像できます。
スノーシューで公園の奥まで散策していくと、コンコンと地下水が湧き出ている泉までたどり着きます。この湧き水と豊かな鮭資源があるからこそ、古代の人々もこの地に暮らすことを選んでいたのかもしれません。
標津町エコツーリズム推進協議会
TEL:0153-82-2131(代表)
※ スノーシュートレッキングの実施についてはお問い合わせください。
【鮭学③】標津サーモン科学館
標津川を少し上流側へと移動すると、標津サーモン科学館が見えてきます。未来感のある施設はまさに「科学館」といった様相で、高く伸びた塔からは川下から海まで見渡すことができます。
今回は、標津サーモン科学館の西尾さんに館内をご案内いただきました。
一般的に、水族館は魚の生態を学ぶことを楽しむ場所ですが、この標津サーモン科学館ではそれだけにとどまらず、「鮭の展示を見て『おいしそう』や『食べたい』と思ってほしい」ということまでも目指した考えのもと展示されています。
サーモン科学館を訪れることで、鮭のことをより深く知って関心を持つことができて、そのあとに町で揚った鮭を消費することで町の経済循環にも繋がり、より深い「鮭体験」をすることができます。
展示されている水槽のひとつは実際に標津川と繋がっていて、時期によって色んな様子を見ることができます。
今回は、スイミーのような可愛らしい稚魚が群れをなして泳いでいる様子を見ることができましたが、特にオススメのタイミングは秋とのこと。大洋を泳いで帰ってきた鮭が、実際に遡上している様子を真横から観察することができます!
また、少しショッキング(?)なビジュアルの「チョウザメ指パク体験」ができるのは、全国的にもこの標津サーモン科学館だけ!
まるでエイリアンのような見た目をしているチョウザメの水槽の中に指を入れるのは、安全だと頭では分かっていてもめちゃくちゃ勇気が必要です。
無意識の抵抗を乗り越えて、見事チョウザメの口に指を食べられることができると「チョウザメ指パク体験証明書」をゲットすることができます!中には1mを超える「ボス」もおりますので、ぜひチャレンジしてみてください。
入り口正面に見えていた塔に登っていくと、上から標津川の流れと向こうに根室海峡を眺めることができます。この川から引かれている水路を辿って、秋になると産卵のために鮭が遡上してくるのです。
まさに海と川といった自然へと「鮭」を通して”地続き”なのが標津サーモン科学館でした。
標津サーモン科学館
住所:北海道標津郡標津町北1条西6丁目1番1-1号
TEL:0153-82-1141
入場料:大人650円 小・中学生200円 幼児無料
【鮭学④】加賀家文書館
場所自体は標津町ではなく近隣の別海町ではありますが、加賀家文書館にもアイヌや鮭にまつわる史料がたくさん残っています。加賀家文書とは、幕末にアイヌ語の通訳者として活躍した加賀伝蔵が残した文書のことを指しています。
主に野付半島のことを中心に、当時のアイヌと幕府の交易の記録が細かく残されています。その中でも特に鮭は、蝦夷地の産物として重要な交易品だったようで、いくつもの展示からその様子を伺い知ることができます。
根室海峡沿岸部の鮭は、この図のように特徴や味などについて解説がされており、現在でいう「ブランド化」がされていたことがわかります。昔から「鮭の聖地」の鮭は特別なものだったんですね!
加賀家文書館
住所:北海道野付郡別海町別海宮舞町29
TEL:0153-75-2473
入場料:一般350円・団体280円(10名様以上)・ 高校生以下無料
【鮭漁】鮭漁同行フォトレポート
その年の鮭の漁獲量が標津の町全体の活気にも影響を与えるほどに、鮭漁と標津は経済的にも精神的にも密接な関わりがあるそうです。今回は、その鮭漁に同行させていただいた様子をフォトレポートでお伝えしていきます。
朝の三時、日の出よりも早く船出の準備をする漁師さんたち。蛍光色のカッパが漆黒の水面に映えています。
およそ30分ほど、船に揺さぶられながら根室海峡を進んでいきます。
慌ただしく準備を進める漁師さんたち、そして見えてきた定置網。無駄な会話の一切ない緊張感の中、目的地へ近づくにつれて皆が一斉に船べりへ集まります。
そして網の引き揚げが始まります。その迫力は、言葉で語るよりも写真で見ていただける方がずっと伝わるかと思います。
鮭が飛ばし上げる水飛沫が漁船のライトに照らされ、まるで火花が飛び散るように鮭と人との闘いを演出しているかのようです。
いくつかの網を引き揚げながら、全体一致の呼吸で鮭漁は進んでいきます。そうしているうちに、北方四島のさらに向こうの地平線から朝陽が登ってきました。息を飲むような絶景ですが、漁師さんたちは「これがいつもの俺たちの景色」というように淡々と作業を進めて行きます。
自然と闘う現場の仕事が終わった後の缶コーヒーは、どうしてこうも映えるのでしょうか。ちょっとしたCMみたいな景色に思わずシャッターを切ってしまいます。この後、親切にもいただいた同じ缶コーヒーが大変身体に沁みました。
そして今回の同行で気づかされたのが、漁師さんたちのファッションの格好よさ。
作業中でも視認性を高めるための鮮やかな色使いと、過酷な寒さと濡れから身を守るためのテカテカの素材。現場での合理性が行き着く先の佇まいは、とても渋くて格好良いです。
さて、今回の主役である「鮭」に話を戻しましょう。
こうして捕られてきた鮭たちは、網からまとめて降ろされた後に漁師さんたちの手によって仕分けされていきます。
こうして引き揚げてきた漁師さん自らの手で仕分けされて出荷されていくことで、私たちがよく知るスーパーや市場などで人の手に渡っていくことになります。
この丸い標津のマークが、標津産の高い品質を表す証。
この◯標はお土産などの加工品にも使われているので、お土産で迷ったときはぜひこのマークを参考にしてみてください!
【鮭食①】郷土料理 武田
「鮭学」で鮭の歴史や文化について学び、「鮭漁」で実際に根室海峡で鮭が揚げられる様子をお伝えしてきました。最後の章では、満を辞して標津の鮭を食べ尽くす「鮭食」についてレポートしていきます。
「鮭食」といえば、ここは外せない『郷土料理 武田』へ訪れました。こちらでいただけるのは、なんと…
『鮭フルコース』です!
13品全ての料理が鮭からなる、まさに「鮭をラボする」ためのメニューです。高鳴る期待に箸を震わせつつ、いったん落ち着いて各料理を堪能していきましょう。
その名に鮭とサーモンというトートロジーを繰り出すほどの、圧倒的な鮭のシズル感。それを裏切らないかのような透明感のある食感とほのかなスモーク臭が、見事な調和を生み出しています。
ビジュアルの圧倒的なインパクトとは裏腹に、骨や皮までも解けるように煮込まれたカブト煮。アゴの方がら齧ってみれば、甘くやさしい味わいが口の中に広がっていきます。
いったい誰が思いついたのでしょうか。透き通るダシに鮭の刺身をさっと通していただく、まさにシャブシャブとしか言いようのないまごうことなきメイン料理です。食感は刺身なのにあったかい、なんとも不思議な感覚に口内がおいしさで満たされていきます。
そしてトドメを刺してくるかのように、キラキラと光るいくらが敷き詰められたどんぶりが目の前に現れます。これぞまさに”標津節”!
いくら(子)、鮭の漬けサーモン(親)、そして標津特産の鮭節(おじいちゃん?)。特に鮭節は、標津川を遡ったブナ鮭からつくられたもの。三代もの鮭が織りなす旨味に、鮭の生涯を感じずにはいられません。
郷土料理 武田
住所:北海道標津郡標津町南一条西1-1-5
TEL:0153-82-3007
【鮭食②】根室海峡鮭茶漬け体験
根室海峡沿いには鮭をはじめとした多くの海産資源がありますが、それらのエッセンスをまとめて味わうことができるのが、「ジャパニーズ・ファーストフード」である出汁茶漬けです!
こちらの「根室海峡鮭茶漬け体験」では、標津の特産品である鮭節をはじめ、羅臼昆布、干しホタテ貝柱、干し椎茸などの日本発の味覚ともいわれている「出汁・旨味」について、実際に講義と飲み比べを行いながら学んでいくことができます。
美味しいお茶漬けに質の良い出汁は欠かせませんが、古来から標津で保存食とされてきた「鮭の山漬け」もまた最高にマッチします!
山漬けとは、普通の塩鮭とは違い、魚を山のように積み上げて熟成に長い日数をかけて旨味を引き出す北海道の伝統的な製法です。
白米の上に鮭の山漬けが乗っていて、そのほかに自分でかけるお茶漬けのためのブレンド出汁が用意され、味を自分好みに調整していける薬味や浜のお母さん方がつくる漬物もセットになって目の前に用意されます。
温かい出汁を上からかけていくことで、山漬けが持っている塩気と旨味が開放されていくようです。お箸でほぐしながらいただく「根室海峡鮭茶漬け」は、標津の旨味そのものをいただいていくことと同義かもしれません。
齋藤さんが考案した「根室海峡鮭茶漬け」は、出汁について学ぶことと食することを同時に楽しめ、標津を含めた道東の文化をまるごと味わえるプログラムになっています!
【鮭食③】標津漁業協同組合直売所
標津漁業協同組合のすぐそばには直売所があり、標津の鮭を使った様々な加工品を購入することができます。お土産探しにはまさにうってつけのスポット!
ずらっと並んだ鮭の加工品。新鮮な海産物から加工された乾物まで、棚に並んでいるお土産品はよりどりみどりで選ぶだけで楽しくなってしまいます。
特にオススメしたいのは、こちらの「ペッパー鮭舞」です!
どこかで聞いたことのあるネームですが、ただのジョークアイテムではありません。ピリッとブラックペッパーの効いた”鮭ジャーキー”とも言うべき鮭とばは、自分で食べるにもクセになり、他人にあげるにも喜ばれること間違いなしです。
もうひとつのオススメは、こちらの「サケフレーク 山漬け鮭」です!
友人からオススメしてもらったものですが、普通の鮭フレークのようなパサパサ感があまりなく、ほぐされた一筋一筋にしっかりとした食べ応えがあり、噛めば噛むほど塩気の向こうからじわーっと旨味が広がります。
標津漁業協同組合 直売所
住所:北海道標津郡標津町北6条東1丁目1−1
TEL:0153-82-2035
”鮭の聖地”でサケラボの旅へ
これまで、史跡や資料館、科学館をまわって鮭の文化や歴史を学び、鮭漁に同行して海峡を渡り、鮭フルコースや鮭茶漬けなどの鮭食を通して食卓まで、鮭と共に根室海峡沿岸部を巡り尽くす「サケラボ」をご提案させていただきました。
こちらのレポートを参考に、ぜひ北海道最東端”鮭の聖地”の鮭を味わい尽くす旅を楽しんでみてください!
日本遺産”鮭の聖地”情報!
鮭の聖地の物語
「鮭の聖地」の物語~根室海峡一万年の道程~PV(full version)
北海道の真ん中・南富良野町をベースに道内各地を駆け回り、フリーランス的に活動中。夏はラフティングガイド、冬はスキーカメラマンなどのアウトドアな仕事もしながら、写真・映像の撮影やWebの文章・動画編集など、デジタルコンテンツの制作を行っている。
北海道の東、道東地域を拠点に活動する一般社団法人ドット道東の編集部。道東各地域の高い解像度と情報をベースに企画・コンテンツ制作をおこなう。自社出版プロジェクト・道東のアンオフィシャルガイドブック「.doto」などがある。