コラム

北海道「根室」で育った男が見つめ直す、最果ての地・根室の魅力とは

根室の地に生まれて33年。僕はこの地・根室市で生まれ育ち、そして暮らしている。

18歳で根室を離れたが、20歳で戻ってきた。25歳で根室に仲間とライブハウスを立ち上げた。

根室での生活が人生の大部分を占める中で、地元の良さや根室に根を張って生きていくことの意義を今ひとつ見出せずにいる。

根室で学び働いてきた。根室で人間関係を築いてきた。今の生活に不満はないけれど特別な誇りや感情も見当たらない。

ただ、音楽を通して全国各地からツアーミュージシャンやお客さんと出会う体験は自分にとってかけがえのないものであった。この地に構えたライブハウスで生きるということは確かな理由ではある。


訪れてくれた人たちと言葉を交わすと、当然のように僕の地元である根室の話になる。しかし根室の魅力をその場で的確に伝えることができない。上手く言葉にすることが難しいのだ。

ライブハウスに訪れる人だけでなく、毎年多くのバイクのライダーやキャンピングカー乗りがこの街へ訪れる。人々は最果てのこの根室にどんな魅力を感じているのだろうか。考えはするがしっくりこないのだ。

漁業、最果て、北方領土に近い、自然に溢れる……。

根室と聞くと真っ先に思い浮かぶのはこういうイメージだろうか。触れる部分・見る側面によってその印象も変化するだろう。ただ根室を「地元」として生きて来た人間としてはどれもピンと来ないのが正直なところだ。

近所には当たり前に海があり、知り合いの漁師さんから魚を貰って食べるのが日常だった。生まれた時からすでに北方四島に日本人は住んでいなかったし、子供の頃、家族で出掛ける車の窓から見える自然は退屈そのものだった。


今回はそんな根室に住む人間が地元を紹介するというガイド的な説明文の羅列ではなく、現地に住む1人の人間が改めてこの街の魅力を考え、この街の景色や文化に触れて、33年間で知り得なかった根室を知ろうというテーマでお届けします。

最果ての地・根室を共に探訪するような気持ちで読んでいただけると幸いです。

太平洋とオホーツク海

まずは本記事を書き始めるにあたって最初に気付いたのが、根室は太平洋とオホーツク海に面した街であるということ。当たり前のこと過ぎて気にも留めていなかったけど、2つの海に面した街というのは日本全国を探してもそう多くは無い。

それがなんだと言われたらそれまでだけど、特筆すべきはその気候の違い。太平洋は日本列島の約半分が面している海であり、有名な海水浴場やドラマや映画に登場するキラキラした砂浜の多くが太平洋側にある。

一方オホーツク海は日本では北海道東部のごく一部だけが面している海域で、冬になると流氷が着岸するなど、厳寒の北海道というイメージそのもの。
改めてそれがなんだと言われたらそれまでだ。ならば「それがなんだ」の答えを探してみよう。

そう思い立ち最初に訪れたのは春国岱(しゅんくにたい)という場所。


春国岱は砂州(さす)と呼ばれ、数千年をかけて堆積した砂の上に植物や木々などが生い茂り原始の森を思わせる島らしい。

ここは島だったのか。

砂州と言われてもピンと来ないし、砂浜というよりかは海と湖と湿地の境目のような様相。

小学生の遠足で訪れたのが遠い昔。
思い返せば潮干狩りをした記憶が。だとするとやはり砂浜なのか。

詳しく調べてみるとここはオホーツク海に面した汽水湖でありラムサール条約登録湿地らしい。(※汽水湖とは淡水と海水が混ざった塩分の低い水をたたえる湖のこと)

結局のところ海であり湖であり湿地のようだ。
思ったよりも不思議な場所だった。


その島の奥へ渡る木道を途中まで砂浜を歩いて向かうことにした。

左手には湖。
右手には防波堤。

延々と続く雑味の無い一辺倒な風景はまさに根室。18歳の時に自分の目の前から捨てたいと望み離れた場所そのものだった。しばらく歩くと木々に囲まれたエリアへ。アカエゾマツの純林だ。


春国岱の木々をまじまじと眺めるのは初めてかもしれない。2014年に爆弾低気圧による高潮被害があり、その時にも木道が損傷して多くの木々が倒壊した。その爪痕が今も色濃く残っていた。


手付かずの自然とは崩れゆく様もありのままに。まるで無慈悲なものだと感じた。
そして次はオホーツク海側を巡ってみることにした。春国岱を後にして根室市街地に向けて車を走らせる。

国道44号線を走り市街地に入ったところで今度は海沿いの道を走る。地元の人からは旧国道と呼ばれていて、その名の通りかつては国道だった道だ。


自分が生まれるずっと前の話だ。オホーツク海に沿って延びる旧国道は起伏が激しく、目線の高さに水平線が見えるような場所がいくつかある。防災などの観点から国道が移転したと思われるが、古い家屋や工場が立ち並ぶこの景観も風情があって良いなと個人的には思う。

その旧国道の中でも好きな場所がこの「初垂橋」

突然の読み方クイズ


遮るものが無く夕陽が見れるこの場所はお気に入りで、天気の良い日には車を停めて写真を撮る人も多い。

正解はコチラ。


はったり橋。

ハッタリと言えどもここが橋なのは本当の話。

おそらく根室で唯一の川「はったり川」その最下流に位置する橋だ。切り立った崖。護岸された岸壁。この橋から見る風景はまさにオホーツク海側の環境を全て詰め込んだようなパノラマだ。オホーツク海側にはなぜか砂浜が無い。(春国岱は一応砂州だけど海との境には防波堤が延びている)

無いと言い切るほど詳しくはないが、少なくとも根室市内では見たことがない。基本的に風が強い。それに加えて冬は気圧配置の関係で、オホーツク海の南側に位置する根室には北風が強く吹く。

そんなことでオホーツク海側は基本的に切り立った崖と護岸された岸壁に波が打ちつける夏に始まる恋物語とはほど遠いサスペンスドラマ寄りの景色だ。

ハッタリ川から少し車を走らせると根室の中心部に近づいていく。

昔ながらの商店街や夜の繁華街などが立ち並ぶ通りだ。せっかくなので根室のグルメも紹介しておこうということで「薔薇」という喫茶店に向かう。

地方ならではの、要望に応えて増えるメニュー

喫茶店とは言うもののメニューは洋食屋のソレで、地元の人もしっかりとご飯を食べに来るお店だ。根室のご当地グルメを調べたことがある人は「エスカロップ」という単語は一度は聞いたことがあると思う。

そしてエスカロップを検索してこの「薔薇」に行き着いた人も多いのではないだろうか。今回はエスカロップではなく、薔薇ならではのメニューを注文してみることにした。

注文したのは「ポークチャップセット」(1600円)

「肉ライス」(950円)

ポークチャップは特段珍しいメニューではないが、とにかく美味しい。この店のおすすめしたいメニューだ。

一方の肉ライスはこのお店のオリジナルメニュー。肉とライス!という単語自体がすでに説明十分なメニュー名だけど、よく見ると説明書きがされている。

甘辛い味付けの豚肉と白いご飯。

要するに豚丼だ。

でも勝手に要約してはいけない。店が肉ライスと言ってるのだから、これは豚丼ではなく肉ライスだ。おそらく、洋食屋でワンプレートメニューがメインのお店でいきなり豚丼を登場させるのは整合性に欠けるし、洋食屋のプライドとして少しでもオシャレにしたい、洋食感を損なわせたくない。(メニューにチャーハンあるけど)

そういった想いから肉ライスというネーミングにしたのではないだろうか。(チャーハンあるけど)

もしかすると洋食屋として箸はアウトでスプーンはセーフ、みたいな感覚なのかもしれない。(だからチャーハンはOK)

なにはともあれそんなことを聞く勇気は無く、ただ黙々と食べた。肉ライスはもちろん美味しかった。地方の店ではよくあることだが、常連さんのアイデアや要望によって元々のコンセプトとは違うメニューやサービスが追加されていったんだという。

これは根室に限ったことではなくて、飲食店のバリエーションが少ない田舎ならあるあるな話で、そうすることで選択肢の限られた田舎でも多くのものを堪能することが出来るという、ある種の理にかなったことのように思う。これもある意味自然の流れなのかもしれない。聞くのは忘れてしまったがチャーハンもそういった要望から生まれたメニューなのだろうか。

裏街道と納沙布岬

お腹が満たされ次は市街地から納沙布岬へ向かう半島線を走る。地元の人たちは太平洋側から納沙布岬へ向かうルートを表街道。オホーツク側から向かうルートを裏街道と呼んでいる。裏街道の特徴は先述の通り切り立った崖。

そしてミズナラの風衝林。

これは根室市の文化財に指定されている。長いあいだ強風や雨雪にさらされて曲がってしまったミズナラの木で、まさにオホーツク海側の気候を表している。

そして個人的に特徴だと思うのが、崖のすぐそばに酪農地があるという光景。海と酪農。どちらも北海道の大きな特徴ではあるが、その特徴がこうして共存している姿は珍しいし面白いと感じる。

写真は7月に撮影したもので、春から夏にかけてはこういった牧草ロールや草を刈るトラクター、緑の中を伸び伸びと暮らす牛。そしてその向こうに水平線を見ることができる。

余談だが、隣町の浜中町では馬に乗って砂浜を走ることの出来る少し変わった乗馬体験を行なっている牧場もあったり、海と牧場という贅沢な2点盛りを堪能できるのも根室地方の魅力かもしれない。

そんな景色を横目に足を進めると途中には漁港や原生花園などが見え、天気の良い日は海の向こうに知床の山々が見える。目に写る全てが自然しかない環境だ。

これも余談だが、小学生の頃、自転車で納沙布岬まで行こうとトライしたことがある。意気揚々とスタートしたものの、強風とキツい坂道の連続に腹を立て、友達から借りた自転車を草原にブン投げて母親に迎えに来てもらったことがある。(自転車は後で取りに行った)

個人的にはそんな思い出もある道。

それがあっという間。車で30分ほどで市街地から納沙布岬に到着。

日本最東端の岬であり、北方四島に一番近い場所。天気の良い日は肉眼でその姿を確認することができる。

北方四島については色々な人にさまざまな思いがあるだろうけど、ただ一つ事実として言えることは、テレビや教科書で習うよりもずっと近くにあるということ。自分の祖父も祖母も元島民で生まれ故郷に帰れずこの世を去ったが、物理的にも気持ちの中でもすごく近くにあるのは紛れもない事実だ。

この納沙布岬には毎年多くの観光客が訪れる。この街一番の観光スポットが領土問題の最前線とはなんともウキウキしない旅行ではあるが、死ぬまでに一度は訪れたいと思う人も多いのかもしれない。

若い時に世話になったやきとり弁当

オホーツク海側をたっぷり調査?堪能?した帰り道。

すっかり日も暮れたので、お土産で締めるために「タイエー」へと向かう。タイエーとは根室に4店舗を構えるコンビニエンスストア。

店のデザインを見てお気付きの方もいるだろうけど、函館にある名店ハセガワストアに似ている。

実は現在のタイエーの社長さんが若かりし頃、ハセガワストアの現会長と出会いやきとり弁当やコンビニのノウハウを教えていただき、その縁あってあの見慣れた看板と「やきとり弁当」を取り扱う許可を受けたお店としてタイエーは根室で親しまれている。

市街地の出口に位置する「タイエー西浜店」では、やきとり弁当の他にも「オランダせんべい」や根室の地酒「北の勝」など、帰り道で根室のお土産をまとめて購入できるようなラインナップになっている。

遠方の人にとってその味は気になるものだったり懐かしいと思えるものかもしれないけど、地元の人にとっても貴重な味である。娯楽の少ないこの街で若い時分には、友人とドライブをするのがお決まりの遊びで、深夜になるといつもやきとり弁当を買って食べていた。

この地域にまだまだコンビニが少なかった頃。24時間365日美味しいものを食べられるのが当たり前ではない頃からタイエーは地域のコンビニとして、はたまたスーパーとしての役割を担っていた。店内には魚や肉などの生鮮食品なども多く、時には宅配や移動販売など(移動販売は現在は終了)、その時々のニーズに合わせて地域の御用聞きとして進化してきた側面がある。

車を持たない交通弱者や高齢の方々にとってはとても心強い味方だろう。お土産のやきとり弁当を片手に1日かけた根室を巡る旅は終了。

「それがなんだ」の答えは簡単には出ないけれど、1つ分かったのはこの根室には「独自の成り立ちがある」ということ。

春国岱という環境。
風によって傾いたミズナラ。
スーパーの役割を担うタイエー。
そして洋食屋の肉ライス。

街に緑を。そう願う人々によってキレイに刈られた芝と等間隔に植えられた街路樹が都会の街にはある。一方で田舎は緑の中に街がある。曲がったミズナラも倒れた古木もありのままの姿ですぐそこにある。

地域のインフラを担ってきたコンビニ。メニュー豊富な洋食屋さん。

都会に比べて経済規模の小さな街でもより多くの選択肢を提供できるよう地域に寄り添った形で進化してきた小売店や飲食店。それら全てに独自の成り立ちがある。

そう考えると、これまでライブハウスに足を運んでくれた友人たちが根室はいいねと言ってくれていたことは何かを考えると。旅のよさとは、地域の成り立ちや営みを肌で感じ、日常とは異なる世界を体験することで、それをまさに感じてくれていたのだと思う。有名なものを巡るわけでもない旅の本質を感じられた時間だった。

最東端という最果ての地。だからこそ独自の成り立ちがあり根室らしい文化や景色がある。その独特な魅力を訪れて体感していただけると嬉しいです。

根室市民/ミュージシャン | | 他の記事

1988年根室市生まれ。高校時代に音楽に魅了されプロミュージシャンを志し高校卒業後は札幌へ移住。その後地元根室へUターン。2014年、音楽仲間と共に根室初のライブハウス「ハイワットホール」を創設。プロアマ問わず全国からアーティストが訪れる日本最東端のライブハウスとして評価を受けている。

編集チーム | | 他の記事

北海道の東、道東地域を拠点に活動する一般社団法人ドット道東の編集部。道東各地域の高い解像度と情報をベースに企画・コンテンツ制作をおこなう。自社出版プロジェクト・道東のアンオフィシャルガイドブック「.doto」などがある。

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