コラム

地域と人をつなげる「根室ディア」。エゾシカに込めた想いと取り組み

オホーツク海、根室海峡、太平洋と三方を海で囲まれた、日本最東端の地「北海道・知床ねむろ」。
日本一の水揚量を誇るサンマやサケ、カニなどの水産物が有名なエリアに近年「ブランド化されている新たな食材」が注目されている。

その名は、「根室ディア」。

海から吹き抜ける潮風の影響で、ミネラル豊富な草をたっぷり食べてやわらかい肉質に育った根室地域のエゾシカだ。
そのエゾシカ肉を安心・安全な「根室ディア」として提供するには、さらにさまざまな工程が必要になる。
今回は、新しくうまれた知床ねむろの特産品「根室ディア」のブランド化に取り組む人たちのお話をお届けしたい。

厳冬期の風蓮湖。野付風蓮道立自然公園に含まれ、ラムサール条約登録湿地でもある

中標津空港からバスで約1時間半、釧路市から車で約2時間。釧路駅から根室駅までJRで約2時間半。その名のとおり日本最東端の「朝日にいちばん近い街」根室市へ向かった。

数年ぶりに訪れた根室の市街地は、街の機能がコンパクトに集約されている印象を受けた。また、ローカルコンビニエンスストア「タイエー」の看板をみると「根室へ来たぞ…」と感覚的にチェックインした気持ちになる。

北海道内、さまざまな地域で取り組みが行われているエゾシカの有効活用だが、さっそく「根室ディア」のブランド化に取り組む根室振興局へ伺い、担当の浦田係長に話を聞いてみた。

誕生「根室ディア」。新たな特産品がうまれた背景

根室ディアを広めるため、さまざまな打ち手を考える浦田さん

-さっそくですが「根室ディア」がうまれた背景や、きっかけについて聞かせてください

まず北海道としてエゾシカ増加による農業被害(根室管内R1年・約5億円)や交通事故、JR支障事故が多発していた背景があります。そうしたなか指定管理捕獲事業として、エゾシカの捕獲が北海道全体ではじまりました。

その一方で、捕獲された個体の有効活用率は20.5%(北海道H29年度)と少なく、そのほとんどが廃棄処理されていたんです。根室振興局でも「命をムダにすることなく有効活用しましょう」ということで、平成 30 年からこの有効活用促進事業がはじまり「根室ディア」のブランド化がはじまりました。

-そんなに被害が…。はじめてから現在まで、どんな取り組みがおこなわれているのでしょうか?

一昨年の夏秋までは、飲食店向けの試食会の開催や地元の構成員のみなさんに参加していただいたりと3ヶ年で計画を進めていましたが、新型コロナウイルスの問題が発生してしまいました。

取り組みとしては1年目に、「根室管内のエゾシカ地域ブランド化協議会」を開催し、愛称となる「根室ディア」という名前や定義を決めました。根室管内で捕獲されたエゾシカで「北海道認証施設で処理されたエゾシカ肉」が根室ディアと呼ばれます。

根室地域のエゾシカ。奥にはユルリ島とモユルリ島が見える

2 年目からは、飲食店のかたにも参加していただき、構成員のみなさんと一緒に意見を反映するなど浸透を図りました。本来なら3 年目に、取り組み自体を「地域みんなで広げていこう」という想定でしたが、新たに 3 ヶ年継続して計画を組み直している状況です。

ー計画を組み直すほど大きい課題と大変なブランド化ですね…

それでも続けていくことで最終的には、「根室ディアを食べに、根室へ行こう!」と言ってもらえるように観光の一助になることを目的としています。

しかし、その観光も今はコロナでストップしている状況で、根室管内を含めエゾシカ肉の滞留が道内で問題となってきている現状です。

なので、今後はもっと地域のみなさんに「根室ディア」の美味しさを知ってもらい、地域内での消費量が増える取り組みを展開していきたいと考えています。

地域一体となって活かす「エゾシカ」という資源

根室限定のコンビニ「タイエー」では、根室ディアのお弁当や串を楽しめる

-そもそも根室でエゾシカ肉を食べる文化は、どれくらい浸透しているのでしょうか?

根室市内では、食肉加工会社のユックさんが会社を設立した15年くらい前から浸透しはじめたと思います。現在は、マルシェ デ キッチンさんやタイエーさんでも「根室ディア」を提供していただいてます。

根室は「さんま祭り」で知られているところもあるので「エゾシカのイベントができないか?」という声もありましたが、今は人を集めることが難しくなっています。それでも「根室ディアを使った料理教室」や「試食会の開催」などやってきました。

そうしたなかから、「コロナでも何かできる方法がないか?」ということで、非対面のオンライン料理教室を開催するなど、工夫を重ねて続けております。来年度は、構成員のみなさんにも集まっていただき、今後の方向性について協議していきたいと考えています。

ー行政と地元の加工会社、小売店や飲食店の連携。地域が取り組むなかで、ぜひ市民も参加してほしいですね…!

現状は課題ばかりです。それでも根室ディアを提供してくれるお店や地域内の消費量が増えれば、それがまた観光にもつながり好循環がうまれると思います。今後もそうした地盤はつくっていきたいと思っています。

地域に還元できる取り組みを。「食肉加工会社 ユック」

ユックさんの養鹿場に集まる、根室地域のエゾシカたち

スタートからすでに課題へ立ち向かう浦田さんのアツい想いに触れて、取り組みに対する理解と興味が更に深まる。

次は、「根室ディア」を語る上で欠かせない「食肉加工会社ユック」の岡村さんと中村さんにお話を伺った。

食肉加工や処理施設についてお話を伺った、中村 亮吾さん(左)と岡村 治さん(右)

-会社設立までに至った経緯を聞かせてください

岡村:会社の設立は平成 17 年になります。ですが、その2年くらい前から当社代表の西尾が「エゾシカを有効活用して、地域に還元できるような形がつくれないか?」と取り組みはじめました。

当時はニュージーランドへ視察へ行き、食肉加工のノウハウや根室振興局さんと捕獲した個体を運搬し、ストレスによる肉質の変化などを調査しながら設立に至りました。

中村:当社としては「地域の資源を単純に処分するんじゃなく有効活用し、社会へ貢献していけるように」という想いではじめたのがきっかけです。北海道の認証制度も弊社が 1 番目の認証となります。

ーかなり早い時期から課題意識をもってはじめられたんですね…!

岡村:もともとエゾシカによる農業や漁業、JRの被害など被害額にしても計り知れないものがあったので「なんとかできないか?」と、少しでも被害を減らしたいところでした。
また、エゾシカを囲う柵やフェンスの設置など、建設業をやっているので重機関係の扱いや人材も自社で取り組めることも強みだったと思います。

広大な敷地で、のびのびと育つエゾシカ。なるべく自然に近い環境づくりをしている

ー西尾建設さんのノウハウも活かされているんですね。実際に養鹿場を設置していますが、どれくらいのエゾシカがいるんですか?

岡村:海岸沿いの敷地(東京ドーム7個ほど!)に、毎年300頭前後のエゾシカが入れ替わりで養鹿しています。この場所に養鹿場をつくった理由も、なるべく自然に近い環境でストレスを与えないように、林や森に近く水分も取れるということで、猟友会の方やさまざまな人に相談をして選択しました。

中村:当社からすると、やっぱり食肉なので品質なんです。お客様も同じ品質のものを求めるので、仕入れの問題も視野に入れて、エゾシカ自体にもストレスがかからない環境づくりを大切にしています。

地域のために、「安心・安全・美味しい」を目指して

ユックさんの食肉加工の様子。国際的な衛星管理の手法で取り組んでいる

-食肉加工施設も早い時期から立ち上げてますが、こだわっていることを聞かせてください

岡村:やはり安心と安全です。食品衛生については、牛や豚は家畜として定められてますが、エゾシカやイノシシといった野獣というのは、それに該当しないんです。

なので、食品衛生法はもちろんですが「エゾシカ衛生処理マニュアル」や、平成26年からは北海道の「HACCP(ハサップ)」という衛生管理の認証と導入評価に従って管理しています。

ーなんだか難しそうですね(笑)。

中村:基本いろいろな決まりがありますが、当たり前のことを当たり前に、決められた基準でやっている流れです(笑)。

でも、すべてのエゾシカが同じ肉質ではありません。なので、個体差による品質も見ながら、いつでも出せるような環境を確保しないとなりません。時期によって脂の乗りとか変わってくるので、品質にはこだわっています。

ー根室ディアになるまで、厳しいチェックを受けて提供されているんですね…

岡村:大切にしているのは、「安心・安全・美味しい」。これが全てですね。あと、コロナ禍で会社としても存続していかないと、地域のためにやっていけなくなるので。長く地域の為に協力できる会社でありたいと思っています。

道東・根室食材を、さらに美味しく。「おいしさ処 あんくる&チボリ」

ユックの岡村さんと中村さんを後に、次なる取材先へと向かう。

創業50年を越える根室の老舗レストラン「あんくる&チボリ」では、長年エゾシカ料理を提供している。

もともと代表の遠藤 輝宣 さんが、ご兄弟で別々のお店を経営していたところ、お兄さんが亡くなられるときに「息子の大士(ひろし) さんと一緒にお店をやってほしい」という遺言があったので今の店名になったそうだ。

父からお店を引き継ぎ、代表の輝宣さんとお店を切り盛りする店長の遠藤 大士 さんにお話を伺った。

あんくる&チボリ店長の遠藤大士さんにお話を聞きました

-鹿肉料理を提供しはじめたのは、いつからになりますか?また、料理の反響なども聞かせてください

ユックさんが立ち上がってからになるので、15年くらいになります。もともと、西尾社長がユックをはじめるときに「根室のエゾシカを広めよう」と、当店の社長に声をかけていただいたことがはじまりです。

鹿肉料理の反応は良いと思います。ただ食べる場所やきっかけは、まだまだ少ない感じはしますね。とくに地元の人は、いつもエゾシカを身近で見てるから「ちょっと可愛そう」という人も(笑)。でも、そうした印象も変わってきている感じはありますね。

ー遠藤さんのこだわりメニューがあれば教えてください

うちだけのメニューで言うと「根室ディアのエスカロップ」があります。普通は豚肉のカツになるんですが、観光客のかたは割とエゾシカ肉のほうを頼まれることが多いです。

地元のかたも毎回のように頼んでくれるファンがいて、その人が美味しいと紹介してくれるのも嬉しいです。

根室ディアのエスカロップ

ー遠藤さん一番のおすすめは?

やっぱり炭火焼きですね。ソースなどはかけず、シンプルに塩とコショウ、オリーブオイルをまぶして炭火の上で、じっくり時間をかけて焼いていく。というか、ほとんど休ませている感じです。

あとは、カットステーキもずっと長くやっているメニューです。ニンニク醤油で最後仕上げるんですが、火の入りかたもまた違うので食感も楽しんでほしいです。部位としてはモモになるんですが、「これがモモなの?」と言われるほどやわらかくて、みなさんビックリされます。

シンプルな調理で食材の可能性を引き出す、根室ディアの炭火焼き

ー実際に料理をする上で、根室ディアにはどんな特徴がありますか?

本当、牛肉と遜色ない感じというか、それ以上というか。ちょっと前のエゾシカ肉はハンターさんが捕ってきて、その血抜きの技術が悪かったら臭かったみたいなことも実際にありました。

ユックさんのエゾシカ肉は臭みもないですし、やわらかいのも特徴ですね。以前、ユックさんが東京へ肉を卸しているシェフのかたを招いて、料理の勉強会と試食会を開催したことがありましたが、根室のエゾシカの肉質について絶賛していただいたことがあります。

ー今後のお店の根室ディアの展開について教えてください

ずっとユックさんのエゾシカ肉でやってきているので、今までどおり継続していくことですね。それと新規で味わってくれる人が 1人でも増えて、根室まで根室ディアを食べに来ていただけると嬉しいです。

店長の遠藤 大士さん(左)と、代表の遠藤 輝宣さん(右)

取材を終えて

今回はじめて実際に根室ディアを食べたが、話にあったとおり臭みなど一切なく、やわらかい肉質とエゾシカ肉の風味を楽しめた。(遠藤さんがセレクトしたワインと一緒に楽しんで、宿泊されることをおすすめします…)

近年増加し続け、害獣と呼ばれるエゾシカだが、命あるものを廃棄処分してしまうのはもったいないというよりも、かわいそうな気持ちも起きる。

地域の資源として、その土地に暮らす人たちが美味しく感謝していただくことこそ、地域が一体となった「根室ディア」の取り組みと呼べるのでは?と感じた。

また、根室ディアを食べに根室へ行きたい。

北海道庁インターネット放送局Hokkai・Do・画
https://sites.google.com/site/hokkaidouchotv/

根室エリア Youtube
https://www.youtube.com/playlist?list=PLC9A7028BF61C2C4E

※根室ディアが動画で紹介されています

ライター・エディター | 他の記事

1982年北海道釧路市出身。くしろ地方のまちづくりメディア「フィールドノート」、道東のSDGsマガジン「tomosu」編集長。DJ、RAP、編集をツールに地域社会の課題解決を目指す、3児の父。釧路町在住。

編集チーム | | 他の記事

北海道の東、道東地域を拠点に活動する一般社団法人ドット道東の編集部。道東各地域の高い解像度と情報をベースに企画・コンテンツ制作をおこなう。自社出版プロジェクト・道東のアンオフィシャルガイドブック「.doto」などがある。

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知床ねむろマガジンは「北海道知床ねむろエリアを知って欲しい」という想いで情報を発信しておりますが、新型コロナウィルスの影響下での旅行を必ずしも推奨しているものではありません。マガジンを読んで「知床ねむろエリアにはこんな魅力がある」ということを知り、北海道に想いを馳せていただきたいと考えています。

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